ITを使った業務改善が失敗する原因と解決策

従業員を苦しめようと思う経営者はいません。しかし、実際にはこうしたことは多くの企業で頻繁に起こります。業務負担を減らし、経営を効率化することでお客様、従業員、企業、関わるすべての人にとって好ましい結果を作りたい。多くの経営者は、そのために努力を続けています。しかし、残念なことに結果として、従業員の負担は増えて疲弊し、サービスの質は低下。最終的にはお客様の不興を買うということが起きます。なぜこのようなことが起きてしまうのか、その原因について探っていきます。

課題と解決策のミスマッチ

多くの企業での失敗は課題と解決策のミスマッチによって生まれています。現場の負担が大きいことにより起こっている問題を解決したい場合、当然のことですが負担を軽減するための施策を導入します。しかし、最終的には何故か現場の負担を増やす結果が生まれます。 なぜ負担が増えるのか、その答えは簡単です。業務を“追加“しているからです。ITツールの導入などが代表的な例ですが、業務においてITツールへの「入力作業を追加」したとすれば、何かの業務がなくなっていない限り、増えているだけで、何も減っていません。これで現場の負担が軽くなるわけがありません。

これは課題に集中していないことによる起こっている問題です。最初は現場の負担を軽減することからスタートしたものの、途中からは経営層や管理職にとって都合の良い、管理コストの低減につながる最終成果物や、お客様に提供される価値などを意識しまうことでおこります。現場のスタッフの負担を減らしたいのであれば、まずは“減らす”ことに集中する。たったこれだけで改善の成功確率は飛躍的に高まります。

ミスマッチが起きる原因は決裁権限者の持つ“欲”と外野から飛んでくる“誘惑”

いわれてみれば、だれでもわかるようなことなのに、何故このようなことが起こってしまうのか。原因は決裁権限者の“欲”と外野から飛んでくる“誘惑”です。現場の負担を減らしたいというところからスタートしても、最終的にはそこからずれていく原因は管理業務の効率化、顧客へのサービスの質向上、コストの削減といった様々な目標を追加させようとする誘惑が決裁権限者を襲うためです。それはどこかで聞いた成功事例であったり、オプションのサービスを売り込もうとする営業の売り文句であったりです。現場のスタッフの負担を減らしたいけど、できることなら一気に他のことも解決したい。そんな欲を持つのは経営層、管理職層であれば当然ともいえますが、その結果、課題と解決策にミスマッチが起きます。そしていつしか、目的がすり替わってしまっていることに気づかないまま、プロジェクトは進行していきます。

複数の問題を一度に解決しようとしないことが成功への近道

こうした失敗を回避するためには、課題を設定したら、そのひとつに集中することです。そのためには、途中でどんな誘惑があっても負けない“これに集中するだけでいい”と思える、最重要な課題に取り組むことです。あれこれと目的が追加されて肥大化していくのは、欲が関係していますが、逆にこれを利用する方法があります。ひとつに集中できないのは、そのひとつを解決するだけで、すべてが解決すると確信が持てないからです。でも、もし、目の前のひとつが解決するだけで、すべてが改善していくと信じることができたらどうでしょうか。そのために重要なたったひとつの課題を設定する必要があります。 そのために、まずは最悪と最高のシナリオを作りあげましょう。

よくある経営としての最悪のシナリオは次のようなものです。

現場のスタッフの負担が大きく、退職者が増えている。退職者が増えると、さらにスタッフの負担は増えてしまい、さらに退職者がでる。退職者の穴を埋めるために、多額の投資をして人材採用を行い、その結果、コストがかさみ、スタッフに還元するための原資は減り、スタッフは忙しさが増したにも関わらず、報酬はかわらず、仕事への意欲が減衰する。そうすると顧客へのサービス提供の質は落ちて収益を圧迫する

このような負の循環が始まること、これが最悪といえるものです。

逆に、最高のシナリオでは次のようになります。

現場のスタッフの負担を減らした結果、退職者が減り、それに伴って経験値の蓄積、モチベーションの向上によってサービスの質があがる。質の向上が顧客の満足を生み出し、それが売上、利益の向上につながる。加えて、顧客による口コミから新規売上が上がるようになり、プロモーションコストも大きく下がり、さらに利益が高まる。業務負担も少なく、モチベーションの高いスタッフが多いことから、求職者からも人気が高まり、より質の高い人材を採用することもでき、企業はより大きな成長を果たす

これが絵にかいたような好循環です。

もちろん、最悪、最高の2つのシナリオを作っても、その通りに進むことは滅多にありません。しかし、シナリオを作ることで、明確な起点が作られます。前述の2つのシナリオであれば「現場のスタッフの負担」という問題を解決するか、しないかのただ1点で、次の展開がまったく違うものになっていくのがお分かりいただけると思います。このシナリオを作ることで、すべてに優先して集中して取り組むべき、ただ一点の課題がはっきりとします。そして、その課題を解決するまでは、他の課題は先送りすることができるようになります。

投資をしたのに組織が上手くまわらない。そんな時は設定した課題をしっかりと見つめてみましょう。二兎を追う者は一兎をも得ずということわざがありますが、投資においても同じことがいえます。二兎も三兎も手にできるという話に乗る前に、まずは集中すべきただ1点を見つけて、それを解決していきましょう。短時間でも劇的な改善を見込むことができます。