営業の最強の敵は「準備」作業。ここを自動化できれば生産性と売上の両方を向上させることが可能
多くの企業が営業の生産性向上に取り組んでいますが、投資に対してのリターンが少ないのが現状です。こうした結果になっているところを調査すると、ほとんどのところがSFAやCRMといったツールを導入していますが、最終的に生産性が上がったのは管理職だけという状態になっていたりします。現場は管理職に管理されるための、情報を入力する時間的なコストが増えているだけで、営業行動そのものの生産性はそれほど上がっていないというような状態です。もちろん、行動の見える化、定量的な状況把握によってある程度の改善は見込めますが、その改善する数値と、その数値を作り出すためのSFAやCRMの運用コスト、どちらが上なのかがポイントです。残念ながら、相当に考え込まれて導入された一部の例を除くと、管理職は楽になり、営業の現場スタッフは苦しくなるというのがよくあるパターンです。
管理職の生産性向上だけでなく営業の現場スタッフの支援も必要。もっともインパクトがあるのは「準備」の自動化
営業やマーケティング関連の部署の管理職の方たちの生産性向上は、世の中に多く出回っている営業支援ツールなどを導入することで、かなりの確率で達成が可能です。しかし、生産性向上という目的ではなく、売上強化という目的になった場合、管理職の生産性以上に”営業の現場のスタッフ”の生産性、そして効果を意識することが重要になります。こうした目標を達成するために最も理想的な状態というのは、営業スタッフたちに特別に難しい思考、判断をさせることがなく、決められた行動の回数、具体的には営業訪問や提案などの行動を最大化してもらうことです。どうやったらこの状態を作り出せるのか、そこがポイントになってきます。
それでは現場の営業スタッフの方たちの業務を工程別にみていきます。まず、管理職が状況を把握するための数値、レポートなどは、可能な限り自動で供給されるようにすることで、営業現場のスタッフは減らすことができます。しかし、ゼロにすることはできません。管理職の生産性向上のためには、営業の現場スタッフの多少の献身は必要になるため、ここは省略することができないというところから考える必要があります。次にお客様のところへの訪問、対応はどうかというと、ここも訪問基準を見直して無駄な訪問を減らすであったり、提案資料の標準化などアプローチのルールなどを決めることで、ある程度までは生産性を高められますが、それでもお客様次第というところもあり、営業スタッフのコントロールできる範囲には限界があります。では、やれば確実に生産性を向上させられる工程はどこかというと、営業に関連したあらゆる「準備」の業務の工程です。
営業スタッフの業務のほとんどは「準備」が占めている。これが自動化されると営業の行動量を数倍にすることだって難しくはない
「準備」といってしまうと漠然としているように感じますが、多くのスタッフの業務のほとんどは「準備」が大半を占めています。たとえば、お客様に営業メールを送ろうとしたのであれば、「送信すべきメールを準備する」という業務があります。送ろうと思うことと、送るという行動だけであれば営業スタッフの負担は少ないものです。他にも、「上司に報告するレポートの準備」であったり、「提案資料に使う調査結果の準備」であったりと、業務のほとんどは、目的のための準備にほとんどの時間が費やされます。こうした「準備」の時間をどうやって減らすか、そこがポイントになります。
まず、準備を大きくわけると定量的なものと定性的なものにわけられます。定量的なものであれば、そもそも数値が用意されているかどうかがひとつのポイントです。何かを数える、何かを集計する、こうしたものは自動化は容易であり、エクセルをはじめとしたソフトウェアなどでも簡単に効率化が可能です。しかし、定量的な準備のなかで負担が大きいのが「数値を作る」という準備です。何かのレポートであったり、資料であったりをまとめるために、必要な数値が存在しない場合、人が一生懸命に手動でカウントしたり抜き出したりして数字を作っていたりします。「この大量リストの企業のなかで、特定の条件を満たす企業が何社あるか調べる」であったり、営業メールのやりとりのなかから、各案件のヨミの状況を報告するために、ヨミのステータスをつけてAヨミ、Bヨミなどがそれぞれ何案件あるかカウントするであったりというものです。こうしたもののほとんどは、人でないと適切な判断、抽出ができない、いわゆる非構造データであるために自動化をあきらめて人が頑張って行っているという会社が多いのが実情です。たしかに、少し前であれば、それは確かに確かに無理なことでしたが、今では自然言語処理、意味理解などの技術が発展しているため、曖昧な情報を定量的なものに変換する処理が可能です。こうした「準備」を自動化するために、データを定量化するための仕組みを導入するのは有益なことのひとつです。
次に準備としてあるのが定性的なものです。こちらはテンプレートを用意することで、営業現場の業務負担を減らすことができるため、多くの企業でそうした方法が実践されています。しかし、テンプレートが用意されていても、その後に、さらに「準備」に相当する業務が待っています。それは「選ぶ」という準備です。ただ、選ぶだけと思ってしまうと、営業現場の生産性は上がりません。実は、いくらテンプレートが用意されていても、どれが適切なのかを見抜くのは簡単なことではありません。熟練者の多くは、どういった場合、どのテンプレートが適しているか、経験によって溜まっている頭の中の情報から、膨大な項目からマッチをかけて適切なものを選んでいます。しかし、知識がない人間が、適切なものを「選ぶ」には判断基準を作ったり、それをトレーニングをする必要があります。こうした「選ぶ」準備を効率化するために有益なのが、AIを活用した非構造データの構造化です。たとえば、営業資料であれば提案書がいくつかあった場合、経験者、管理職などは過去の類似の顧客、案件から最適なものを選び出します。この時、難しいのが「類似」を見つけ出すことです。それは企業規模なのか、それとも売上なのか、今回の予算なのか、担当者のタイプなのか、それとも決裁権限者の役職なのか、大量ある項目の中からどの組み合わせが類似していることが重要かを見抜くのが簡単ではないのです。ここをAIを活用して、これまでの実績データのパターンをチェックして、今動かしている案件がどのパターンに近いのかを判断させていく。こうすることで「選ぶ」という準備行動も、スピード、精度ともに挙げていくことができます。
営業というと管理という点が強化されがちですが、本当に結果を出そうと思うのであれば現場の「準備」にこそ注目してみる必要があります。非構造データを構造化する、そしてAIを活用してパターンを見抜いていく。こうしたテクノロジーを利用することで、労働時間を減らしつつ、確実に売上を伸ばしていくことが可能です。