その”自動化”は働く人たちを幸せにするものか?働く人たちの感情まで含めて考えたプロジェクトかどうかは、自動化プロジェクトの成否を分けるポイントのひとつ

自動化を強化していきたいと考えている企業は非常に増えており、多くのプロジェクトが常に進行しています。しかし、理論上はうまくいくはずなのに、実際にやってみると失敗するプロジェクトというものもたくさんあります。失敗した理由も様々ありますが、その中でも上位にあげられるもののひとつに「働く人たちの感情を考慮していない」というものがあります。

すべてがシステムによって代替されるわけではないという現実を踏まえて設計することが成功へスタート地点

自動化というと、システム化することによって、これまでよりも「大量」「早く」「正確」といったようなところに注目が集まりがちです。今よりもどれだけ生産性があがるのか、今よりもどれだけミスが減らせるのかといったように定量的な面から考えるのは基本であり、とても重要なことです。プロジェクトを進める場合は、どのような項目を定量的に考えて、それをどれだけ強化できるのかという皮算用から考えていきますが、短期的にすべてを自動化できるプロジェクトというのは非常に稀です。多くの場合、業務のバリューチェーンのなかの一部の工程を自動化していくことになりますが、その工程の前後を担うのは人間です。たとえば、マーケティングを強化しようとして適切な情報収集を自動化したとしても、その情報をもとに改善策を考えたり、行動をするのは人です。どんなに適切な提言、アラートを大量に提供したとしても、その後の作業には人が介在するわけですから、人の限界以上の結果は生まれません。また、人の限界は労働時間×能力だけで決まるわけではありません。そこに”やる気”というものも加味されて、労働時間×能力×やる気によって導き出されることを踏まえた上で、自動化のプロジェクトは検討を進めていく必要があります。

強要されることを喜ぶ人はいない。みんなが望むものを提供することが重要。そのためには「毎日ある」「たくさんある」「やりたくない」の条件をチェック

どんなに優れた自動化のソリューションであっても、最終的に全体のバリューチェーンが機能しなければ、その恩恵が業績に表れることはありません。業績にプラスの効果がでるような確実な成功を目指すのであれば、社内のみんなが望んでいる状態を作ることが実は重要です。人間には感情、プライドがあります。機械がやりますのであなたはこの仕事をしなくていいですといわれると、多くの人はやる気を大きく失ってしまいます。しかし、その人が「こんな仕事をしたくない、明日もやらなければならないなんて…」と思っていたらどうでしょうか。きっと喜んで、自動化ソリューションの受け入れ、その上で導入してくれたことに感謝するはずです。そのために意識する必要があるのが、自動化する業務が、「毎日ある」「たくさんある」「やりたくない」という3つの条件を満たしているものかどうかということです。もし、これが満たされていなければ、最初にこの状態を作るのもひとつの手段です。これまでよりも処理量を増やしたり、週に1度だったものを毎日にしてみたりといった具合です。そうすると、自然と「自動化してほしい」という声があがってくるようになります。このみんなが望んでいる状態というのは、自動化を成功させるとても重要なポイントです。

自動化のシステムは計算一瞬で切り替えができるが、人の変化には時間がかかるということを踏まえることが重要

そして働く人を幸せにするためには「人は簡単には変われない」ということをしっかりと把握しておくことも企画の上では重要になります。自動化のソリューションとなるシステムなどは、導入さえすれば一瞬で切り替えができます。しかし、人は新しいルールを導入しても簡単には変われません。これまでの習慣、成功体験としての記憶、変化に伴う学習コストの煩わしさ、様々なものが人間の変化に対するスピードを遅くします。ここで強力なトップダウンで「やれ」という号令をかけて解決することもできますが、その結果、やる気はどうしても大幅に下がりますし、一部の狡猾な人たちは微妙な抵抗をしてきて、最終的に成功までの道のりが遠のくこともあります。最も理想とすべきは、人の変化のスピードを踏まえて、自動化の導入スケジュールや手順を組んでいくことです。もちろんこの変化に対応するスピードというのは個人差があるため、すべての人に合わせることはできません。しかし、業務に関わる9割の人たちが賛成しているものを、強硬に反対する人というのはそれほど多くはありません。まずは9割の人たちが違和感なく、対応できる進行をプロジェクトの中で考えていきましょう。

自動化というと、システムの機能などについての話が多くなりがちですが、プロジェクトとして成功させるためには社内で歓迎されることがとても重要です。そのためには、働いてる人たちが幸せになれるかどうか、ここをひとつの指標に入れて検討を進めていくことも重要になります。