現場の生産性を下げる”不完全なデータを生み出す残念なシステム”はどうして生まれるのか?
どんな業務においても、現状を把握するためにはデータが必要です。これから何をすべきなのかを考える際にも競合や消費者のデータが必要です。コストを削減するためにも、売上を上げるためにも、スタッフの評価を実施するためにもデータは必要で、組織として動かすビジネスではデータは、生きていくために欠かせない血液のような存在になっています。そしてそれらを管理するためにシステムが存在するわけです。データがあり、それを活用するためにシステムが必要。システムがあることでデータが生まれる。このサイクルを高速に回すことでアウトプットの改善速度が上がっていきます。
データは組織のビジネスフローそのもの。ビジネスが無限に変化を続ける以上、データも無限に変化することを理解しておくことが重要
こうしたことを多くのビジネスパーソンは十分に理解しています。そこでSFA、CRM、ERPなどのシステムやサービスを導入することによって、より効率的な運営を目指しています。しかし、残念ながら思ったほどの成果でない、導入後に別な問題が起こった、ということは少なくありません。これらは”機能と効用”にのみ意識がいってしまい、現実を直視していないために起こっています。
多くの組織ではデータは業務フローと連動して生まれていきます。市場、営業リスト、営業進捗、契約、納品進捗、売上、請求、入金といったようなものです。まずその市場にどんな顧客候補がいて、競合はどこなのかを調べます。その結果、事業性を感じて、商品を作った後、営業リストを作り、営業を開始します。営業の進捗を管理し、受注に結び付いたものは契約として管理され、これが売上として計上されます。そして納品の進捗を管理して、納品が完了すれば請求し、入金ができているか追っていくというわけです。
これは複数の組織、人をまたいで、様々なデータを引き継ぎながら、次へ次へと進んでいきます。しかし、実際にはデータは一方通行でわかりやすい状態のままというわけではなく、非常に難解な動きを見せます。たとえば、契約が終わって売上に計上されていたものが、取り消しになってしまうことがあります。この場合、売上データが変更になるだけでなく、取り消しになったものは、どの段階に戻るのか複雑な変化を見せます。契約前に戻って再営業をかける、つまり営業進捗で再進行を管理する段階に戻るのか、案件として消失し、営業進捗の中で失注として完了となるのか、もしくは、納品進捗の段階に戻るのかなど、多くの分岐が存在します。また、この変化によって、売上が変わるわけですから、売上予測を管理するシステムも変化しますし、そこを踏まえて営業個人のKPIのデータも変化するなど、組織の中でデータはひとつの変化が、大きな変化へと繋がっていきます。
”導入”ではなく”終わりなき調査と改修のスタート”が正しい心構え。但し、人は無限に続く労働に弱いことを踏まえる必要あり
こうしたことを踏まえて、ERPなどではすべてのデータが”理論上は連動して動作する”という形になっているため、対外的には「だからうちの商品は効率的なんです」と喧伝されています。しかし、現実はそうきれいにことが進むようにできてはいません。営業するのも、記録を取るのも、修正するのはすべてがシステムであれば、理論通りの動きになりますが、残念ながらほとんどの動作の初手は人間が担っているためです。クレームの電話、納品に関する仕様変更の相談、営業電話でのアポイント獲得活動など、ほとんどの初手は人から始まります。つまり、一般的な安易な解決策として提示されているシステムやツールのほとんどは、人が完全な動作を完全なタイミングで継続的に行うことが価値を生み出す前提になっています。もちろん、そうしたことは非現実的なものであり非常に高い確率で失敗に終わります。
まず人間は完全ではありません。ミスもしますし怠惰にもなります。そして大人はやる気がなくてもそれを表に出さない演技力を持っています。ルールは設定してもしっかり守ってもらえるわけではないし、市場の変化にあわせてルールも柔軟に変更され続けます。きれいに動いてた組織も、半年たって人が数人入れ替われば、前工程、後工程などで問題が発生することも起きます。何も完全なものがない中で、システムは動き、データは生み出されて続けていくというわけですが、当然、そのままでいいわけがありません。組織は市場の中で戦い、人は組織の中で働きます。市場は常に変わり続けるし、組織の中の人も変わり続けます。すべてが不明瞭であり、それは永遠に続いてくわけです。
では、どうしていけばいいのか。答えは簡単です。無限の変化に、無限に対応し続けるだけです。システムは開発が完了し、運用フェーズに入ると”保守”といわれる仕事に切り替わります。一昔前であれば、システムが動いていることを確認するだけの簡単なお仕事といえるものでした。しかし、市場の変化スピードが速くなった現代においては、継続的な組織と市場の調査、運用結果の分析、陳腐化している機能と問題のあるデータの洗い出し、改善案の立案、承認された案の開発といったことが”保守”となっています。つまり、”終わりなき調査と改修のスタート”というわけです。失敗は誤った目標設定から始まります。作ろう、導入しようではなく、無限の変化に、無限に対応し続けるという意識を持つことが、成功への第一歩といえます。ただ、無限というのは働く人のモチベーションを著しく下げます。そのため、組織としてどのようにして永続的な改善活動を取り組むのか、属人性を排除して、人の継続的な入れ替えを含めて、持続的な枠組みを作ることが重要です。